1925住宅地域に建てられる店舗の設計

住宅地域に建てられる商店の設計   

岡村蚊象

(『店舗及住宅』1925年12月号4~6ページ)

 こゝに紹介する、商店は内務省告示第十四号地域圖に於ける住宅地域に建てられる住宅附の店舗であります。で甲乙両種の防火地域に建てるには充分なる防火装置を施さなければなりませんがここでは防火地図外に建てられるものとして考へて行きませう.。
 ⅠⅡ共に骨組は勿論木造ですが、窓、入口と壁との面積の割合を充分考慮に入れて完全に耐震構造とします。
 外部壁の仕上は、人々の趣好によって異りますが、まづ「ロツクシタツコ」か人造石洗出しに貼煉瓦をあしらうのも面自いと考へます。

Ⅰ案の説明
  階下 十六坪五合
  階上 七  坪
  延坪 二十三坪五合
 家 族
  夫婦一組 子供一人 通勤店員二人


 此の案は圖に示す如く非常に奥へ細長い形をごつではゐますが、間口商店として、狭過ぎることはありません。三尺の飾窓を左右に設けて、九尺四枚の引違ひ硝子障子が出入口となつてゐます。
 店舗の床は叩きで、壁高四尺の腰羽目の上を紙張とし、天井は漆喰が落付いた気分を出すのに役立ちます。それに中庭に接した處に大きな窓かありますから、採光と通風は充分に行はれます。従来の方法ですと、間口が街路に面した一方にあったたのみでしたので、採光は天窓から行ふとしても、通風は全然不可能なことであったた様です。この一事が衛生上重要な一條件であるのに、何故未だ改良に手を染めてないのでせうか私には不思議に考へられます。
 店舗と住宅との境の戸は硝子腰高唐戸としこれを開けると、三人の沓脱があります玄関の二畳を通って、奥の八畳の居間へ行くのですが、この室は出来る丈け明るい感じにする為に壁は、玉子色仕上げとし、押入の唐紙は極清素な單色を選びます。
 室の廣さに対して採光窓の面積は充分です。中庭には主人の趣好による植木をあしらって、この生活に一段のすがすがしい情味を添へたいと思ひます。
 先きへ書くことを忘れましたが、この家は一軒独立して建てても、また、圖に示す如く四軒乃至は六軒を連続とし、一棟としても、その敷地の都合で何れを取るも結構と考へます。只連績の場合には中庭の関係によりまして、採光は幾分助けられることになりますし、亦工事費は独立一軒のものに比して遥かに低廉であるでせう。


Ⅱ案の説明
  階下 二十一坪五合
  階上 二 十 坪
  延坪 四十一坪五合
 家 族
  夫婦一組 子供二人 通勤及住込店員三人

 Ⅱ案も、Ⅰ案と、同じテーマに依って設計されましたが、圖に示す如く、間口を廣くし、奥行を縮めて見ました。外装と、内部の仕上げも、Ⅰ案に従ひ、只一寸上等にしたいと考へます。
 二階の店舗は、他人に貸しても独立にしても、貸さすに、一階と、共通して経営するも、その都合に依りまして、適宜です。そして、二階の店舗と住居の境は絶縁するも出入口を附けて連絡を取るも、自然、二階店舗を自己経管にするか、貸與するかに依って、決定する事になりませう。
 I案に比して家族の数が多いので、住居の分は二階にしなくてはなりません。二階への階段は、玄闘に附けさして、店員その他の出入を便にします。押入は圖に示す如く出来る丈多く取りましたが、まだ階段の下も押入になる様に設計しましたかから充分だと考へられます。住居の二階の六畳は店員室とし、八畳は客間か居間として住居中最も重要な室にします。
 両便所の構造は流水浴化装置が一番よろしいでせう。
 Ⅰ案と同じく連続建としても単独としても、出来ます。
 これで、大体の説明は終りましたが、最後に店舗の外観に就いて、述べたいと思ひます。
 現今の店舗は必らず、ペンキの看板と、千遍一律の装飾方法に限られてゐます。どの街を歩いても、凡ては同種な形式です。日本の商店は、低級なペンキ塗の看板と、無智な大工と左官のために、目茶目茶にされてゐます。どこにも、高尚な趣味と、その店舗の持つ特殊性(例へば化粧品店なれば化粧品店らしく、その店の外観を表現する)の現はれがありません。
 これからの新時代の店舗は、よろしく、現代の我國民性を表現した芸術的にも価値あるものでなければならないと思ひます。
 それには美意識を持たない人達に、この重大な仕事を任せることは、出来ませんから相当な専門家に依頼して、従来の悪趣味から、免れることに心懸けるなれば、現今の沈滞した、非文化的な建物は、間もなく此の地上から、姿を没することでせう。(了)

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注、この『店舗及住宅』1925年12月号の執筆者はつぎのとおり。
 墺国ウィーン市店舗意匠集     早稲田大学教授 吉田亮一
 復興と建築            復興局建築部長 笠原敏郎
 住宅地域に建てられる商店の設計 分離派建築美術家 岡村蚊象
 商店の装飾                    竹村新太郎
 七坪余で出来る現代住宅              山縣順夫
 門の設計                     山口栄一
 植木室の付いた小住宅               小川光三
 店頭装飾について             図案家 石川藤丘
 裏庭の利用と設計           園芸得業士 大橋 勤 
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